新・観光立国論(デービッド・アトキンソン)

掲題の書籍を読み終えたのでご報告申し上げる。

<要旨>

  • 成熟した先進国においては、GDPと人口には強い相関がある。勤勉さや技術力などといった要素は二次的であり、最もGDPに強く影響する要素は人口である。我が国においては人口減トレンドが明白であり、2048年までに人口1億人を割り込むと予想されているにもかかわらず、経済規模を持続的に成長させるための施策は的外れなものが多い。ウーマノミクスや生産性向上などの各種施策が提唱されているが、これらは大きな成長効果は見込めないばかりでなく、歪められた現状分析に基づいたものが多い。一般的には移民政策が経済規模を劇的に拡大する切り札となりえるが、移民にとって日本を選択するメリットは薄く、よって我が国において成功は見込めない。そこで筆者は「短期移民」すなわち観光客を誘致することが、経済成長に欠かせないと主張する。
  • 観光立国であるための4条件は「気候」「自然」「文化」「食事」であり、日本はこれら4条件を兼ね備えた稀有な国である。にもかかわらず、我が国は「知名度」「交通アクセス」「治安」「おもてなし」などの二次的な要素を前面に押し出しており、その方針は極めて的外れであると言わざるを得ない。特に「おもてなし」に関しては、日本人による勘違いに過ぎずそのレベルは決して高くないし、その押し付けがましさは外から見れば滑稽にすら映る。4条件を満たす恵まれた国であるにもかかわらず、韓国を下回る1,300万人程度しか訪問していないという事実を見ると、我が国における観光への意識は極めて甘いと言わざるを得ない。
  • 日本の「おもてなし」に白けてしまう理由は、それが供給者の都合に基づいた表面的なものだからだ。客が何を望んでいるかを察して常に的確に応えることは、サービス業の基本動作であり、世界の観光立国では常識である。ところが我が国においては、「おもてなし」なるものが観光客のニーズと完全にかけ離れてしまっている。その背景には大量の観光客を効率良く捌くという発想があるのではないか。他には、全てのサービスは無償であるという意識も影響しているだろう。それらの発想は誤っているので転換すべきだ。「いかにお金を使ってもらうか」という意識を持つことで、ニーズにきめ細やかに応えることができる。利益と顧客満足度の両方を追求することができる。
  • 我が国における観光産業は対GDP比で2%程度だが、もしこれを世界平均の9%程度にまで高めることができれば、追加的に40兆円の経済効果を見込むことができる。その場合の訪日外国人数は5,600万人と試算される。筆者は決してこの目標は達成不可能ではないと考える。現在の1,300万人の訪日外国人は、実はその多くを台湾・中国・韓国等の近隣諸国が占めており、必ずしも経済効果は高くない。訪日外国人数を高めることに加えて、日本国内で消費させるためのマーケティング戦略は極めて重要である。特に、豪州・欧州の観光客は滞在地で多くの消費をする傾向があるので、彼らにフォーカスすることは有効だろう。
  • 観光立国となるべく持つべき視点は、フルサービスの提供である。日本をまだ訪れたことが無い人達に対して、日本という国がいかに彼らの多様なニーズを満たすことができるのか考えなくてはならない。日本に親しみを覚えている人だけに来てもらおうと考えるのは、供給者サイドの傲りであり誤った視点である。文化財や豊かな自然などの恵まれたコンテンツは、彼らの多様なニーズを満たせるポテンシャルがある。観光産業を低く見てはならない。稼ぐことを意識し、コンテンツの提供の方法を変えるべきだ(個別方策については本書内で解説)。そうすれば、日本文化の奥深さに気づいてもらうことができ、リピーター訪日外国人を作ることができるだろう。

以 上

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